THE NUGGETS LIVE REPORT
THE NUGGETS 結成10周年
特別単独公演 大阪編『出港』
2019 2/8 at 大阪キャンディライオン
ロックンロールをベースにした武骨なサウンド、エモい歌とエンタメ性の高いパフォーマンス、そして熱いメッセージで老若男女のハートをわしづかみにしてきたTHE NUGGETS。
10周年を記念に自分達の実力を試すため、本年3月中旬から『アメリカ大陸横断アドベンチャー!』が決定。ロスからニューヨークへ、ツアー車へ乗り込みドサ回りを敢行。
その旅立ちの1ヶ月前に『出港』と銘打ち大阪キャンディライオンにて特別単独公演を行った。
古くは横浜銀蠅、そして、氣志團やクレイジー・ケン・バンドなど、魅せるエンタメ系バンドの系譜に連なるTHE NUGGETSは自ら『船橋系エンターテイメント型パーティバンド』と標榜する。この特別単独公演 大阪編『出港』は『アメリカ大陸横断ツアー』と『帰港』と銘打つ凱旋公演が地元船橋で行われると聞きつけた関西のシンパの「『帰港』するのに、なんで『出港』せえへんのや?」というリクエストがきっかけで行われたもの。また、14才に幼なじみとして出会った4人が THE NUGGETS の結成10周年を記念するショウでもある。
よって、客層は古くからTHE NUGGETS を応援してきた年齢層の高い古手のシンパが中心で、アットホームな雰囲気で行われた。SEが響き、赤いカーテンをバックにしたFenderやMarshalのアンプが目映いステージに、ボーカル以外のメンバーが現れる。ベーシスト大牟田徹の口上があり、「日本一熱く、日本一ソウルフルで、日本一イカす男、船橋のエルヴィス・プレスリー、ジェイル・ワタル!」とフロントマン工藤わたるを誘い、ショウはスタートする。
抜群の存在感をもって登場する工藤わたるはどデカいリーゼントに深紅のスーツ姿。なぜか、腰には船のはりぼてが。そうか「出港」をイメージしての演出だ。一曲目は高揚感のある「LET’S GO」から。グランド・ファンク・レイルロードを彷彿させる正統派のアメリカンロック。ルックスをみるとロカビリーだけを演るバンドのようにみえるが、こうしたアメリカンロックやロックンロール、バラード、カントリーやハードロックなどポップなロックに歌を載せ、メッセージを伝えるのが彼らのスタイルだ。
客席は一曲目から大盛り上がりで手拍子で応える。2曲目はラテンのリズムをイントロにした「心のラスヴェガス」ユニークな振り付けで煽ってくる。パワフルなロックナンバーだが「優しさに包まれた心のラスヴェガス」というフレーズに彼らの夢がドリーミーに提示される。
そしてMCでは「羽生結弦君と同じ歳」と自己紹介。彼らの親くらいの世代の客が盛り上がって羽目を外そうといういう様子をみて、「成人式記念パーティみたい」とほくそ笑みつつ、この公演の実現のために尽力した人々に感謝の言葉を述べた。
3曲目は「洋子」という、メロディアスなロックチューン。演劇的なパフォーマンスで客席を惹きつけ、洋子という女性に捧げた、熱い気持ちを歌い上げる。ヴェンチャーズ「パイプライン」をチラ見させつつの西山 浩喜ギターソロ、そして、ハンドルを握り、女性を抱き寄せて運転する工藤わたるのパフォーマンスに客席は沸き立つ。
続くカントリー調のアップテンポな「俺のおごりだ!」はバカ騒ぎを煽るパーティチューン。ひとしきり暴れたあと、フロントマン工藤わたるが消え、ギタリスト、ベーシスト、ドラマーへとメインコーラスを回していく。工藤わたるに負けず、それぞれの歌も個性があり、ロッカーとしての力量が垣間見られた。
ドラマー加治 工芳が打って変わってしみじみと歌ったかと思うと、客席後方から工藤わたるが登場!
胸に赤いバラをさしたストライプのスーツ、巨大なモエ(シャンパン)のボトルを抱えている。それを、会場の人々に振る舞い、パーティを盛り上げた。そして、「みなさん、疲れてないか?」とねぎらい「この感じで朝までいくよ?」と笑いを取った。
そして、カラオケの配信にもなっており、客席の人々にも歌って欲しい曲があるといって始めたのが「ここまで」。アップテンポでストレートなサウンド、ポジティブなメッセージが込められたアンセムだ。「バカにされてもいい、ここまできたのだから」という歌詞がささる。
続く「いいぜ」も「泣いたっていいぜ」「泣けたっていいぜ」とおやかに自己肯定感を伝えるロッカバラード。「笑われたりしたけど、いまの俺が、貴方が一番美しい」とうったえかける。14才でバンドを結成し、10年のキャリアを経て、まだまだ高みを目指す彼ら。途中で味わった夢と挫折、そして、希望の物語がここに込められている。
MCではバンド結成から今にいたる、10年の歴史を語り、客席の人々にも「10年、長かったでしょ?」と笑顔で問いかけた。客席の人々は彼らの親の世代。夢と挫折そして、希望を感じて今がある。もしかすると、もっと大きな夢があったかもしれない。そこで、葛藤しながら生きている。そうした心境を肯定するメッセージ。それは世代を超えた普遍的なテーマであり、客席に佇む人達のハートを震わせた。
しっとりしたノスタルジックな雰囲気の後は、趣向を変えて意外な展開。
松田聖子の名曲「Sweet Memories」のカバーだ。甘いギターの伴奏にバックに安定した歌声を聞かせ、後半には THE NUGGETS らしい展開となり、メンバーと観客、それぞれの10年を共有し、リスペクトするシーンとなった。
続くMCでは『アメリカ大陸横断アドベンチャー!』の概要を説明。今年の3月13日~24日の約10日間をかけ、ツアー車に乗り込んでLAかNYへ、総移動距離は約5000キロとなるという。エンターテイナーの憧れの地で力を試してみたいと抱負を語った。そして、辛くても自分のやりたことをやる!帰ったら待ってて下さい!と伝えると「待ってるよ~」という声が返ってくる。エンディングは、9回の裏まで、何があるかわからないというストーリーを歌う「大逆転」という明るく開放感なナンバー「下手なダンスでいい」。清々しい気分が会場に漂う。
歌い、踊り、観客をいじってTHE NUGGETSの世界へと引き込んで笑いをとったかと思えば見せ場ではほろりと泣かせる……。そして青春時代の夢と挫折、続いて再生への物語へと展開するショウは少し短いながらも見応えのあるものだった。
ショウはエンディングとなり、一度ははけた後にアンコールに応えて登場。
アンコール1曲目はTHE NUGGETSのキラーチューンの一つ「グレート・ギャツビー」。メンバーのヘアスタイルに使っているマンダム社のギャツビーをリスペクトしてのアップテンポのハードなロックナンバーだ。続く「誰よりも」は大好きなことに没頭する気持ち、忘れていたことを思い出させる名曲だ。「誰よりも早く、誰よりも強く」というコーラス部分では、客席からも歌声が聞こえてくる。そして、ラストの「もう一度ツイストを」では、「最後に一曲、躍って帰りましょう!」とフロントマン工藤わたるの誘いで、ホール全体が一体感に包まれ、ミラーボールが煌めくなか大ツイスト大会に。「24才のお父さん(の世代)の皆さん、ここではここでは年齢は関係ないから、一番カッコイイ、ダンスを踊ろう!」と煽った。
「そのダンスの名前は?ポールダンス?ロボットダンス?フラダンス?盆踊り?」工藤わたるが問いかけると、会場は「NO!」とコールアンドレスポンス。会場は興奮のるつぼとなりショウは大盛り上がりのなかエンディングとなった。
3年ほどまえに彼らのステージを観たのだが、今回は魅せるエンタメより、本質的なメッセージが響き、彼らの成長が見られ、なかなか震えた。10周年といっても、まだまだ24歳の4人。彼らがアメリカでどんなステージを展開し、そこで、何を見るのか?気になるところ。とどまらず進化し続ける彼らの姿から目が離せない。
THE NUGGETS
Ba. 大牟田 徹 (おおむた とおる)1994年6月29日生
Dr. 加治工 芳 (かじく かおる)1994年11月4日生
Vo. 工藤 わたる (くどう わたる)1994年8月22日生
Gt. 西山 浩喜 (にしやま ひろき)1994年7月26日生
公式サイト
『ゴーン・ガール』虚構であろうと実体としてタフに生きることの哲学を描いたフィンチャーの問題作
『セブン』『ファイトクラブ』『ドラゴン・タトゥーの女』などの話題作でも知られる映画監督デヴィッド・フィンチャー。初期作品はミラクルなロングショットや独自のカメラアングルで圧倒的な視覚体験と衝撃的な結末でマニアックな人気を博していたが、近作では不穏な映像美に加え、見終わった後にじわじわとフラッシュバックする、深く、屈折した豊穣な深層イメージが特徴となっている。
そして、ここに紹介する『ゴーン・ガール』はフィンチャーの最高作ではないかと評されている。
二枚目で優しい夫ニック・ダン(ベン・アフレック)と美しく完璧な妻のエイミー(ロザムンド・パイク)の5回目の結婚記念日。平穏だったはずの日常が崩壊する。
エイミーが突如失踪、リビングに争った後、キッチンで発見された大量の彼女の血痕が発見されたのだ。警察はアリバイ不足のニックを疑い、興味本位のメディア報道は過熱、二人の素性が暴かれ、ニックのイメージが崩れ始る。
さらに、エイミーの日記が発見され「ニック・ダンが妻を殺したのではないのか?」と誰もが疑うようになる。さらに、二人の幸せな美男美女カップルという印象とは異なる「顔」が明らかになり、底知れない素性が露呈し、観るものは釘付けとなる。
物語は意外な展開を見せ、ナインチネイルズのトレント・レズナー達が紡ぐ不穏なサントラを借景に物語は深みにはまっていく。バイオレンスや猟奇の見せ方で映画ファンを席巻してきたフィンチャーだが、本作では男女の心理戦が主軸。
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それでも、戦慄の展開と衝撃は観るものを捉えて放さず、フィンチャーの最高傑作との評価を得ている。言うまでもなく犯人は意外な人物なのだが、犯人が紡ぎ出す完全な虚構は『ファイトクラブ』のタフネスにシンクロする。
仏教の「色即是空」は環境や状況は全て「空」であり、実体がないと諭す教えだが、本作は全ては「色」であり、それが虚構であろうと実体としてタフに生きることの意味をフィンチャーは説いている。
表面的な幸福像に完璧さを追求し、狂気の際に立ったロザムンド・パイクの真に迫るな演技がすばらしく、目が冴える独白シーンが圧巻だ。
監督/デヴィッド・フィンチャー
出演/ベン・アフレック、ロザムンド・パイク ほか
ⓒ 2014 Twentieth Century Fox
イノヤマランドの名盤『DANZINDAN-POJIDON』復活
ジャパニーズ・アンビエントのエポック
日本のアンビエント作品のエポックといえば細野晴臣が1985年にモナドレーベルからリリースした『マーキュリックダンス』というのが持論だが、遡ること2年、テクノポップとの中間領域、アンビエントの黎明期に独自のサウンドスケープを展開したアルバムがあった。1983年に細野晴臣が主催する¥ENレーベル傘下のMEDIUMレーベルよりリリースされたイノヤマランドの『DANZINDAN-POJIDON』だ。
80年代、P-MODEL、プラスチックスとならび、テクノ御三家の一つに数えられたヒカシュー。キテレツなボーカル巻上公一とギター海琳正道の背後で寡黙にシンセを弾いていた井上誠と山下康の2人による別ユニットがイノヤマランドだ。
私が彼らの音に初めて触れたのは、細野晴臣と高橋幸宏が設立した¥ENレーベルのアーティスト、つまり、Water Melon Group、日向敏文、テストパターンとともにイノヤマランドが参加したオムニバスアルバム『Down To The Resort』に収録された音源だった。
イノヤマランド/テストパターン他/避暑地まで。Down To The Resort
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同アルバムに収められていたイノヤマランドの曲は3曲だが、破壊力のあるヒカシューとは打って変わった、清らで軽やかなサウンドに驚かされたのを覚えている。
そのアプローチはブライアン・イーノが展開しているアンビエントとも、ジ・オーブのようなクラブ系チルアウトとも趣を異にしていた。無機質で単調なシーケンス、クリアーで軽快なシンセの音色。「遊園地のBGM」というべきか、「辺境の地の自動演奏」と称すればいいのか、サウンド・オブジェっぽい不思議な存在感は先のアルバムの中でも際立っていた。
一切の制約を受けずに非標準的な音楽作り
イノヤマランドを発掘、プロデュースを担当した細野晴臣は、後に、ノンスタンダードとモナドレーベルを設立する。それらのコンセプトはノン・スタンダードが「多くの人々に支持されながらも作り手側の感覚が標準化されていない音楽」、モナドは「一切の制約を受けずに非標準的な音楽作りを目指す」だったという。イノヤマランドはそうしたコンセプトを先取りした存在だったといえるだろう。その結果、容易にアンビエントというジャンルにも回収されない、独自性のサウンドアプローチを試みたわけだ。
ファーストアルバムとなる『DANZINDAN-POJIDON』は大ヒットしたわけでもなく、マニアに静かな衝撃を与えた問題作だった、昨今はシティポップの最評価と連動。海外の音楽マニアやDJからの注目が集まり、コレクターのレアアイテムとして高値で取引されていたという。
そんななか復刻版がExT Recordingsというレーベルから再発された。このレーベルは90年代、Pacific 231やTagomago、Space Ponchなどの渋谷系、音響系アーティスト、そしてレーベル主宰者の永田一直や砂原良徳、サワサキヨシヒロ!などの音源をリリースしたトランソニック・レコードを前身とする。当時のオリジナルマルチトラックテープを新たにデジタルミックスダウンされたリマスタリング音源だ。
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エンジニアリングを担当したのはROVOやDUB SQUADのメンバーとして知られ、砂原良徳のアルバム『liminal』のミックスを手がけた益子樹。なんと、イノヤマランドの山下康の従甥でもあるという。35年の時を経て、再評価され、復活した響き。この珠玉の響きを若い世代の音楽マニアやDJがどのように解釈し、そこから、どんな世界が生み出されるのか。気になるところだ。