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編集後記のようなライター(音楽)のブログ

『ゴーン・ガール』虚構であろうと実体としてタフに生きることの哲学を描いたフィンチャーの問題作

『セブン』『ファイトクラブ』『ドラゴン・タトゥーの女』などの話題作でも知られる映画監督デヴィッド・フィンチャー。初期作品はミラクルなロングショットや独自のカメラアングルで圧倒的な視覚体験と衝撃的な結末でマニアックな人気を博していたが、近作では不穏な映像美に加え、見終わった後にじわじわとフラッシュバックする、深く、屈折した豊穣な深層イメージが特徴となっている。

そして、ここに紹介する『ゴーン・ガール』はフィンチャーの最高作ではないかと評されている。

 二枚目で優しい夫ニック・ダン(ベン・アフレック)と美しく完璧な妻のエイミー(ロザムンド・パイク)の5回目の結婚記念日。平穏だったはずの日常が崩壊する。

エイミーが突如失踪、リビングに争った後、キッチンで発見された大量の彼女の血痕が発見されたのだ。警察はアリバイ不足のニックを疑い、興味本位のメディア報道は過熱、二人の素性が暴かれ、ニックのイメージが崩れ始る。

さらに、エイミーの日記が発見され「ニック・ダンが妻を殺したのではないのか?」と誰もが疑うようになる。さらに、二人の幸せな美男美女カップルという印象とは異なる「顔」が明らかになり、底知れない素性が露呈し、観るものは釘付けとなる。

物語は意外な展開を見せ、ナインチネイルズのトレント・レズナー達が紡ぐ不穏なサントラを借景に物語は深みにはまっていく。バイオレンスや猟奇の見せ方で映画ファンを席巻してきたフィンチャーだが、本作では男女の心理戦が主軸。

 

ゴーン・ガール(サウンドトラック・フロム・ザ・モーション・ピクチャー)

ゴーン・ガール(サウンドトラック・フロム・ザ・モーション・ピクチャー)

 

 それでも、戦慄の展開と衝撃は観るものを捉えて放さず、フィンチャーの最高傑作との評価を得ている。言うまでもなく犯人は意外な人物なのだが、犯人が紡ぎ出す完全な虚構は『ファイトクラブ』のタフネスにシンクロする。

仏教の「色即是空」は環境や状況は全て「空」であり、実体がないと諭す教えだが、本作は全ては「色」であり、それが虚構であろうと実体としてタフに生きることの意味をフィンチャーは説いている。

表面的な幸福像に完璧さを追求し、狂気の際に立ったロザムンド・パイクの真に迫るな演技がすばらしく、目が冴える独白シーンが圧巻だ。

監督/デヴィッド・フィンチャー
出演/ベン・アフレックロザムンド・パイク ほか
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