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編集後記のようなライター(音楽)のブログ

脳内で組み立てるパズルのような映画。河瀬直美監督『Vision』

永瀬正敏、ジュリエット・ビノシュW主演の話題作

『萌の朱雀』で第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少(27歳)で受賞、『殯の森』で第60回カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞した河瀬直美監督。

「あん(2015年)」「光(2017年)」に続いて、主役に永瀬正敏を、もう一人の主役として、ジュリエット・ビノシュを起用した「Vision」が完成した。フランス映画界の妖精が吉野の山間地に降臨するという奇跡的な展開となった。

 

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奥深い奈良・吉野の山間地で、山守として生きる智(永瀬正敏)と不思議な力をもつアキ(夏木マリ)は自然と心を通わせ、静かに暮らしていた。

ある日、アキは「最近、森がおかしい。1000年に1度の時が迫っている」と智に言う。そして、智に春日神社へ行くように告げた。そこには「Vision」という植物を探し求め、フランスからやってきたというエッセイスト・ジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)が居た。

智の山の生活を気に入ったジャンヌは彼のもとに身を寄せる。

そして、「Vision」を知っているかと問うと、アキが知っていると答える。そして、謎の言葉をジャンヌに投げかける。すると、ジャンヌの目には涙が浮かび、物語は動きはじめる。

「Vision」の存在を確信したジャンヌは、吉野の自然と智の静かな佇まいに触れるうちに、徐々に智に心を寄せるようになる。

ジャンヌがフランスに戻っている間に、智と同じように山守として山で生きる鈴(岩田剛典)が二人の間に現れ、複雑な関係が生じる。

また、シーンの合間に猟師・岳(森山未來)と源(田中泯)が幻のように姿を見せ、さらには「ある事件」について語る村人たちの回想シーンがはさみこまれる。

ストーリーには曖昧さが残され、因果関係は不明瞭のまま映画のタイムラインは進む。その合間には、大自然のミクロとマクロの世界が驚異的な精度と迫力で映し出され、フィールドレコーディングによる大自然の環境音が圧倒的なリアリティと繊細な音像で物語を包み込む。

演技と自然の映像、音像が織りなす曼荼羅

ストーリーの辻褄などを考えずとも、俳優の演技と背景となる大自然、そしてダイナミックな映像と音像が渾然一体となって伝わってくる。

パズルだけが手渡され、映画が終わってから「こういうことだったのか?」「いや、こうでは?」と脳内で考え続けることになる。そこで、感じうるものが「Vision」なのではないだろうか。

「あん」は確かにいい映画だったが、樹木希林が樹木希林以上にはならず、永瀬の表情にも何か腑に落ちない印象があった。「光」は水崎綾女がもたらす光源と永瀬正敏の影が見事に「光」を表していた。

 

 光

そして、「Vision」はあらゆるものを突破し、河瀬直美のメッセージが、まるで曼荼羅のように抽象的ではあるが圧倒的な力でもって描かれていた。

 

ちなみに、この映画のプロデューサーであり、ジュリエット・ビノシュと河瀬直美の橋渡しをしたマリアンヌ・スロットは、「奇跡の海」「メランコリア」「ニンフォマニアック」など20年以上にわたり、ラルス・フォン・トリアー監督を支えてきた敏腕プロデューサーだ。

「奇跡の海」で見せた巨大な鐘のシーンと「Vision」のラストシーンを重ね合わせたのは私だけだろうか?

vision-movie.jp

「Vision」でさらに大きな世界に飛び出した河瀬直美監督。それも、奈良という、いままで観光地としてもなかなか陽の当たらなかった地を舞台にしたことは、非常に意義のあることだと思う。

あん

あん

 
光