Postscript

編集後記のようなライター(音楽)のブログ

シティポップに続き、海外からも注目される日本のニューウェーブシーン

海外の音楽マニアで日本のシティポップがカルトな人気をあつめていることは周知の通り。このブログでも竹内まりあの作品が新たに発掘されたこともお伝えしたわけだが、状況はさらに変化し、今度は日本のニューウェーブが注目を集めているという。

遅ればせながらシティポップに耳が馴染んだ海外の音楽マニアたちの耳が欲したのが、シティポップ隆盛期と同期していたニューウェーブだったということなのだろう。

シンセサイザーがYAMAHAのDX7やKORGのPOLYSIX、そしてRollandのJUNOなど単音シンセサイザーから和音が出せるポリフォニーシンセサイザーへとシフト、シーケンサーやリズムボックスが黎明期を向けた時代、「機材の成功事例」のように登場した音楽シーンだ。

ニューウェーブといっても、そのスタイルは多彩で、大きくわけると、ニューヨークやロンドンのパンクの影響をうけたプラスティックス系、ヒカシューなど脱ロック系、P-MODELなどのエキセントリック系にわけられる……というか、彼らがその全てなんだが、そうしたカテゴリーに判別される。

その一方でニューウェーブとしては亜流、テクノの王道として大成功したのがYMOだった。

YMOの成功は「奇抜なものを作れば売れる」というレコード会社の誤解を生んだが、その結果、副産物として現れたのが、細野晴臣が秘蔵っ子として育成したYENレーベルのアーティスト達だ。

YENレーベルは細野晴臣がテイチクレコードの依頼で作ったレーベルで、LDKスタジオという細野晴臣のプライベートスタジオを擁することで存分に自由なレコーディングが可能となった。ちょうど、いま、MacBook一台で音楽が作れる、そんな感じに似ている。そんな恵まれた環境のなかでスタートした奇特なレーベルだった。

当時は、YMOみたいな変な音楽をつくれば、売れるんじゃないか?という発想で細野に託されたわけだが、そこから第二のYMOは残念ながら誕生することはなかった。

YENレーベルのアーティストを連ねてみると、レーベルの後にも活躍したプラスティックスでも異彩を放っていた立花ハジメ、戸川純のゲルニカ、テストパターンやイノヤマランド、さらに細野自身の実験的なソロアルバム「フィルハーモニー」、高橋幸宏。

サンディ&サンセッツの名も忘れてはならない。

彼らの軌跡がいま、シティポップの次に着目されている。

シティポップはポップスに取り入れた、日本人プレイヤーの過剰なチョッパーベースやポリシンセのバッキングなフュージョン的な奥行きが滑らかなメロディラインとあいまって生まれたものだが、ニューウェーブはそうした音楽的な根っこのない、あるいは従来の音楽の文脈からまったく離れた場所から生まれた土着の都市音楽だった。

80年代、90年代は「何でもありの時代」といわれているが、そうした過剰に紛れて噴出したもの。

本来は表にでることのない無意識の塊のようなものが吹き出し、音楽のシュルリアリズムのような奇妙な流れに体良くニューウェーブという名前が与えられたのだと思う。

YMOはともかく当時は日本でもキワモノとして捉えられていた感のあるニューウェーブ。いま、インバウンドで世界から日本の文化が注目されるなか、ニューウェーブも彼らの食指に触れることの意味を考えることは、自分たちにとっての「日本の音楽」、あるいは「日本らしさ」をあらためて考えるキッカケになるのではないだろうか?

 

f:id:sakutaro8888:20180426135604p:plain

YEN卒業アルバムは所属アーティストと細野、高橋幸宏らの楽曲が収められている。

YEN卒業記念アルバム

YEN卒業記念アルバム

  • アーティスト: オムニバス,高橋幸宏,スーパー・エキセントリック・シアター,TESTPATTERN,戸川純,INTERIOR,小池玉緒,細野晴臣,ゲルニカ,イエロー・マジック・オーケストラ,立花ハジメ
  • 出版社/メーカー: アルファレコード
  • 発売日: 1994/12/21
  • メディア: CD
  • クリック: 1回
  • この商品を含むブログ (3件) を見る
 

下の動画はYENレーベルの「卒業記念映像」「また会う日まで」。

こんな映像があるとは知らなかった

 


鏡の中の十月 小池玉緒 music by YMO 【STEREO】

YMOメンバーが全面バックアップしたシティポップとテクノの分水脈『鏡の中の十月』。

坂本龍一のアレンジ作品群の白眉というべき伝説の名曲。